平野の音博物館は、「考える会」が「平野・町ぐるみ博物館」運動(1993年〜)の一環として運営するサウンドスケープのミュージアムです。単なる録音物の集積ではなく現実社会における音の意味の理解を目的にしている点はサウンドスケープ思想の、またミュージアムの主要な目的を地域貢献に置き地域文化の研究を通して新しい地域文化の創造を指向する点においてはエコミュージアム思想の影響を強く受けていると言えます。コンテンツの質を根底から真摯に問いつづける耳と想像力のための小さなミュージアムは、来るべきデジタルアーカイヴ時代の真の礎たるものと確信しています。
音には,人の想像を豊かにし,記憶を鮮やかに蘇らせる作用があります。映像に付随する音声として聴かれる音は,映像の背景に沈殿して,意識されないことすらあります。しかし,音を中心にして呈示される場合,音はその人の持つ記憶や想像力にはたらきかけ,その音の奥にある意味やイメージ(印象)の世界へと聴く人を引き込んで行きます。
音は必ずなにかが起こった結果生じるものです。平野の音を知ることは,平野の出来事を知ることでもあります。平野にはこんな音があります,こんな音がありました,こんな音があればいいいのに,ということをまとめてみることは,平野の歴史と現状そして未来を知り,考える手がかりでもあるのです。
写真は1914年から1980年まで平野の人々に親しまれてきた南海電車平野線の列車.その姿だけでなく音もまた,背後の物語とともに人々の記憶の中に焼きついています.
内容 | 平野駅の南海電車 音源提供:松村長二郎氏 | 時間 | 24sec | 再生 |
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音博物館の資料は,聴くことによって「知識」を得るためだけのものではありません。文字や写真で表わすことのできない,音でしか感じることのできないものを,肌で感じ取ってもらうためのものでもあります。平野を音で表現するということは,ただ単に音を聴いてもらうということではありません。音の背後にある町の物語,その音が町の人にとってどんな意味をもっているのか,というちょっとディープなところに興味を持っていただくことが当博物館の目的なのです。
写真は杭全神社で正月に行われる福餅をつく様子.行事での人々の活気に満ちた雰囲気は文字や写真では表現しきれません。
内容 | こどもだんじり 録音:西村篤 | 時間 | 33sec | 再生 |
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音博物館はこれから発展が期待される領域です。海外には音楽・口承・野生動物・演説・放送などを扱ったサウンドアーカイブがありますが,日本には少ないのが現状です。またその目的も学術研究用・放送などの業務用に限定されています。地域理解のためのサウンドスケープミュージアムは,視覚中心・施設中心の従来の博物館の在り方を問い直す新しいタイプのミュージアム運動でもあります。
ここ10年ほどで,サウンドスケープをキーコンセプトにした町づくり・都市計画・文化復興の事業は増加の一途を辿っています。しかし,その多くは行政主導型・一過性のイベントや調査。後世への伝承まで含めた住民主体の事業が望まれます。サウンドスケープはひとつの切り口でしかありません。その先にある町づくりを成功させることこそ本当の目的といえるでしょう。地域主導の音博物館づくりは,準備〜開設〜運営のプロセスを含めて,町づくりの新たな切り口となるでしょう。
私達のまわりには次の世代に伝えて行きたい様々な音風景があると考えています。しかし,現在多くの音が日常生活の中から失われつつあります。例えば,物売りの声,お寺の鐘,口承伝承,等々...。これらの音は今日「騒音」とみなされることがしばしばあります。しかし,音は本来,私達人間の生活にとって欠かせない様々な情報をもたらしてくれるものです。「聞くこと」は私達が環境と関わってゆく上で大切な技術なのです。平野の音博物館で私達が試みていることは,次世代のためにある種の生活の技術を残してゆこうということでもあるのです。
内容 | 杭全神社の神楽 録音:西村篤 | 時間 | 93sec | 再生 |
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平野の音博物館は、対象領域(テリトリー)内に点在する複数の施設から構成されています。施設を見学するだけでなく、施設から施設へと巡り歩く間に触れる風景を感じていただくことも、大きな目的の一つであるからです。施設は、中心となる「聞き耳本舗」、サテライトとなる「聞き耳処」に分類されています。
全興寺(平野本町4-12-21)にある聞き耳本舗では,平野の音博物館資料のほとんどを聞くことができます.昭和初期の電話機(右写真)と5連装CDチェンジャーを使って,様々な音風景を聞くことができます.日曜・祝日の9:00〜17:00開館.
聞き耳本舗以外にも、平野の様々な場所に因んだ音を聞くことのできるサテライト博物館を展開しています。
名称 | 住所 | 展示方法 | 開館日 | 資料内容
杭全神社 | 平野宮町2-1-67 | CD資料 | 毎日 | 神社の行事に関する音風景
| 染と織・まつや | 平野本町3-8-1 | CD資料 | 第4日曜日 | →聞き耳本舗
| 定食の店・京政食堂 | 平野本町3-12-2 | FM放送 | 第4日曜日 | →聞き耳本舗
| 和風喫茶・くろせ | 平野東1-8-43 | FM放送 | 第4日曜日 | →聞き耳本舗
| 大念仏寺 | 平野上町1-7-26 | CD資料 | 毎日 | 寺の行事に関する音風景
| 木田呉服店 | 平野本町4-13-1 | FM放送 | 第4日曜 | だんじり囃子
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平野の人々に地域の音風景を言葉で表現してもらいました.(協力:平野の町づくりを考える会,調査時期:1997年)
子供の頃この場所でけんかをした時のクスノキのざわめきが今でも記憶に残る。 |
阪神高速ができる前,JR貨物車の汽笛が夜更けに物悲しい感じで鳴っていた。 |
今は音らしい音がなくなってしまった。昔は時間のことや季節のことなどいろんなことを音から知ることができた。 |
60年程前の銭湯の音も記憶にある。 |
スーパーで聞こえるパタパタというサンダルの音がとても活気にあふれている。 |
交通量の多いところでは車の音が耳につく。静かな地域との差は大きい。 |
あめ嘉のおばちゃんの声をワカイ時から聞いてきた。「そうやねん」「あかんねん」「どうしたらええやろ」と人なつっこい声。 |
お地蔵さんの鉦の音は,聞こえる所と聞こえない所があり,それぞれに個性の音がある。 |
最近は子供の声がしなくなった。数が減ったというだけでなく,こちらから声をかけても挨拶すらしない子が多い。 |
昔は,さおだけ売りの声が肉声で聞こえていましたが,今はスピーカーから流れてくる。昔が懐かしいです。 |
祭りの準備を始める時,だんじり小屋を開けて,最初に感じる木の匂い,だんじりを引き出す音。なんやケツの穴こそぼうなるような感じする。 |
現在歌われている河内音頭は浪曲音頭で,平野の初音屋太三やん,栄ちゃん,卯っさんの3人の合作。 |
幼稚園への送迎のお母さんと子供達の声が何年か前の我が家の姿と重なってなつかしい気持ちで聞いています。 |
朝7時頃から聞こえる名物の亀乃饅頭を焼く音。 |
年末には必ず聞けた餅つきの音が最近聞くことができなくなった。 |
お田植え神事も,昔は夜に行われていたせいか,神秘的な感じが強かった。以前の国宝級のものと,今の時代のものと,世代の違いが感じられておもしろい。 |
祭りは,近付いてきたな,という感じがよい。若衆も,これから宮入りするぞ,という気合いが少しずつ入ってくる。その動きと音がシンクロしておもしろい。 |
みこしのかざりが「シャリシャリ」と鳴る音もまた良い。 |
宮中でもなくなってしまった連歌の会。悠長な文化の様子を伝えていって欲しい。 |
耳をすませばグォーと響いてくる高速道路の音。 |
商店街では人のかけ声に親しみを感じる。 |
万部の音。大念仏寺の本尊を持って檀家を廻る,そのときにカーンカーンと鉦を鳴らす。昔は平野じゅうに響いていた。 |
百八つの鐘の音,砂利を踏む音,はしゃぐ子供の声,本堂での絶え間ないかめ鉦の音,大念仏寺には新年を迎える厳かな雰囲気が漂う。 |
今ではなくなってしまったが,賑わいの音が町中に響いていた。 |
戦国時代以来,平野を守り,独自の文化を育んできた平野の環濠。いまはもうその姿を見ることはできませんが,昔環濠があったルートをめぐり,現在の平野の音風景を調べてみることにしました。(観察者:石井正美・石井晋・西村篤・西村愛,観察日:1998年3月8,10日)
「平野の音百連発」は、平野の音博物館における1997年から2004年までの活動内容を集めたサウンドモノグラフ集です。現在は評価版を公開しており、皆さんからのご意見をもとに、正式版の活用や今後の制作について考える予定です。聞いてご意見ご感想を送っていただける方には無料でお配りしています。宛先を明記の上 soundscape@omoroide.com までお申込ください。
ここでは、平野の音博物館の著作物の使用に関するきまりについてまとめる予定です。このようなきまりをつくる目的は、平野の音博物館の著作物がすべての人々に公平に利用されるようにすること、また平野の音博物館の活動にすべての人々が参加できるようにすることです。平野の音博物館における著作権についての基本的な考え方は、コピーレフトの概念に沿っています。[2004/05/29]
平野の音博物館では、面接調査(インタビュー)や質問紙調査(アンケート)などを通して、情報提供者の個人情報を入手することがあります。これらの個人情報は、漏洩のないように厳重に管理します。また、博物館の業務目的以外のために使用することはありません。もし、平野の音博物館に提供したあなた自身の個人情報について疑問のある時は、soundscape@omoroide.comまでお問い合わせ下さい。[2004/05/29]
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